「温泉を水で薄めている」と聞いてどんな印象を持ちますか?
「ジュースを薄めて飲む」を想像すると…
薄めている施設はあります
実は以外に多くの施設で温泉に水を加えています(加水といいます)。
水を加えると聞くとどうしても「薄まる」のでイメージが良くないのですが、仕方がない場合がほとんどです。
今回は「なぜ温泉に水を加えるのか?」について書いてみます。
1. 熱い温泉を適温に冷ます
温泉は自然のモノなので湯の温度もいろいろ。
温度がお風呂に適温であれば問題ないのですが、熱ければ冷ます必要があります。
疑問① 薄まってしまうのでは?
水を加えるわけですから当然薄まってしまいます。
しかし多くの場合「熱い温泉は濃い」ようです。
つまり少々水を加えたところで、『すっごーーーーく』素晴らしい温泉が『すごく』素晴らしい温泉になるだけです。
同じジュースを薄めて飲むにしても、100%ジュースであれば美味しいです。
疑問② 他に冷ます方法ないの?
加水せずに冷ます方法もありますが一長一短があるようです。
その① 源泉をしばらく流して冷ます
「草津の湯畑」が有名です。
薄まらないので良さそうですが、温泉が空気に触れることで成分が沈殿・揮発・酸化など変化(温泉の老化)が起こる場合があります。
草津温泉の湯畑にも白い沈殿物が溜まるので定期的に取り除く作業が必要です。
ただその沈殿物を「湯の華」として販売したり、「採取イベント」にしてみんなで楽しんだり有効活用していますね。
その② タンクにしばらく置いておく
その①に比べて空気に触れることが少なり、湯の変化は少なくなりますが、適温になるまで時間がかかってしまいます。
相当大きなタンクを用意しない限り、湯船に使用できる温泉の量は制限され、大きな浴槽には適しません。
その③ 冷たい空気や水に通して冷ます
熱交換器という機械に通して強制的に熱を奪います。
温泉の老化は少なく適温になるまでの時間も少なくて済みますが、機械を設置するためのコストやメンテナンスコストの負担が大きくなります。
加水で冷ますのは合理的かも
つまり、加水は「成分を老化」させずに「すみやかに」「安価」で湯船に注ぐ有効な手段なのかも知れません。
2. 濃い温泉を優しくする
温泉によっては成分がすごく濃い温泉があります。
『濃い』と聞くとすごくウキウキワクワクな感じがしますが、大変な場合もあるようです。
入浴に適さない
温泉が強酸性や硫化水素ガスを含むなど、少量であれば問題ないが多量だと体に負担が大きい(もしくは害がある)場合があります。
そのため体の負担を軽減するために水で薄めます。
あえて薄めず、療養を目的とした湯治として利用する場合もあります(秋田県玉川温泉など)。
メンテナンスコストがかかる
強酸性や強塩泉の温泉は金属を錆びさせます。
またカルシウムなど成分によっては、お湯を通す管に石のような塊ができ、詰まらせてしまいます。
このような場合、機械や部品を痛めなくするために水で薄める必要があります。
3. 足りない湯量を補う
温泉は自然に湧き出したのものやポンプで汲み上げたものなどがありますが、その湯量(湧出量といいます)が少ない場合、水を加えて補うことがあります。
「少ない温泉をさらに水で薄める!?」なんて魅力がないですね。でもちゃんと理由があります。
衛生的になる
少ない湯量の温泉をかけ流しにしようとすると、浴槽にはちょろちょろと注ぐことになり、浴槽のお湯が十分に入れ替わらず不衛生な状態になる場合があります。
新鮮な水を加えることで十分な量のお湯を注ぐことができ、浴槽のお湯を清潔にすることができます。
不衛生な『すごく』素晴らしい温泉と、清潔な素晴らしい温泉はどちらが良いですか?
大きな浴槽ができる
使える温泉が少なければ当然浴槽も小さくなります。
スーパー銭湯のように大きな施設の大きな浴槽は魅力的ですよね。
温泉の成分自体は薄まってしまいますが、新たな魅力が加わります。
掲示しています
さて皆さんが入られる温泉は『加水』しているのでしょうか?
実は『加水』する場合は、その旨とその理由の掲示が義務付けられています(温泉法施行規則)。
掲示を探して確認してみてくださいね。
ちなみに金城温泉は・・・
※ 参考文献:温泉ソムリエテキスト(平成27年版)
※ 文書中、「いらすとや」様のイラストを使用しております。 該当するイラストの著作権は「みふねたかし」様が所有されています